水戸地方裁判所 平成9年(ワ)106号 判決 1999年4月14日
原告
社団法人日本音楽著作権協会
右代表者理事
小野清子
右訴訟代理人弁護士
堀井敬一
被告
豊島秀夫
外一名
右両名訴訟代理人弁護士
山本宜成
被告
有限会社ビデオメイツ
右代表者代表取締役
小島正博
右訴訟代理人弁護士
木ノ内建造
主文
一 被告豊島秀夫及び同豊島美津枝は、茨城県水戸市泉町<番地略>協和ビル三階「ナイトパブG7」及び同県筑波郡伊奈町大字高岡<番地略>「パブハウスニューパートナー」の各店舗において、別紙カラオケ楽曲リスト及び同追録各記載の音楽著作物を、次の方法により営業のために歌唱・上映してはならない。
1 カラオケ装置を操作して伴奏音楽に合わせて顧客あるいは従業員に歌唱させる方法
2 カラオケ装置を操作してカラオケ用のビデオグラムに収録されている伴奏音楽を再生(上映)する方法
二 被告豊島秀夫及び同豊島美津枝は、前項記載の「ナイトパブG7」店舗内に設置された別紙物件目録(一)記載のカラオケ装置の機器を、同「パブハウスニューパートナー」店舗内に設置された同目録(二)記載のカラオケ装置の機器をそれぞれ各店舗から撤去せよ。
三 被告らは、原告に対し、連帯して金一一七万六六七〇円及びこれに対する平成九年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員(但し、被告豊島秀夫及び同豊島美津枝との関係では、同年四月四日から支払済みまでの分のそれに限る。)を支払え。
四 被告豊島秀夫及び同豊島美津枝は、原告に対し、連帯して金一一三一万七六〇〇円及び内金七七二万一九〇〇円に対する平成九年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は、原告に生じた費用についてはその二〇分の九を被告豊島秀夫及び同豊島美津枝の、二〇分の一を被告有限会社ビデオメイツの、その余を原告の負担とし、被告豊島秀夫及び同豊島美津枝に生じた費用の一〇分の九を被告豊島秀夫及び同豊島美津枝の、その余を原告の負担とし、被告有限会社ビデオメイツに生じた費用についてはその一〇分の一を被告有限会社ビデオメイツの、その余を原告の負担とする。
七 この判決は、第一項乃至第四項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一項及び第二項と同旨
2 被告らは、原告に対し、連帯して金九二六万六二九〇円並びにこれに対する平成九年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員(但し、被告豊島秀夫(以下「被告秀夫」という。)及び同豊島美津枝(以下「被告美津枝」という。)との関係では、同年四月四日から支払済みまでの分のそれに限る。)を支払え。
3 被告秀夫及び同美津枝は、原告に対し、連帯して金四九一万九四五〇円及び内金一三二万三七五〇円に対する平成九年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和一四年法律第六七号)に基づき、著作権に関する仲介業務をなすことの許可を受けた我が国唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者からその著作権の全部又は一部(演奏権、上映権等の支分権)の移転を受ける等してこれを管理し(内国著作物については、その著作権者との間の著作権信託契約約款により、外国著作物については、我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互保護管理契約による。)、国内の放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の使用を許諾し、その対価として利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
そして、別紙カラオケ楽曲リスト及び同追録に各記載の音楽著作物は、いずれも原告がその著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である。
(二) 被告秀夫及び同美津枝は、水戸市泉町<番地略>協和ビル三階において、訴外柴沼良一(以下「柴沼」という。)とともに「ナイトパブG7」を共同で経営し、また、茨城県筑波郡伊奈町大字高岡<番地略>において「パブハウスニューパートナー」を共同で経営している夫婦である。
(三) 被告有限会社ビデオメイツ(以下「被告ビデオメイツ」という。)は、電気・通信・電子・計測・音響機器及び部品の販売、ビデオ機器類の販売及びレンタル、各種光学機器・照明機器の販売等を目的として平成元年六月二七日に設立され、茨城県の南部を中心とした地域において業務用カラオケ機器のレンタル及び販売業務を主として行っている有限会社である。
2 被告らの行為
(一) 被告秀夫、同美津枝及び柴沼は、前記「ナイトパブG7」において、原告の使用許諾を受けることなく、①平成二年六月の開店時から平成七年一〇月二〇日までの間(同年六月九日から三か月間を除く。)は被告ビデオメイツから、②同年一〇月二一日から平成八年一二月二〇日までの間は訴外株式会社常磐第一興商から、③同月二一日から現在に至るまでは訴外水戸東映エーブイシステム株式会社からそれぞれカラオケ装置(伴奏音楽を収録した録音テープや伴奏音楽と歌詞を静止画と同時に収録したコンパクトディスクあるいは伴奏音楽と歌詞を映画の著作物と同時に収録したビデオディスク等を再生する機器とアンプ、スピーカー、モニターテレビなどを組み合わせて、伴奏音楽を再生すると同時にこれとあわせてマイクロフォンを使って歌唱できるように構成された装置をいう。)のリースを受けて設置し、原告の管理著作物である伴奏音楽が収録されているレーザーディスクを常備する等して、顧客にマイクと原告の管理著作物を含む楽曲の索引リストを手渡して歌唱を勧め、従業員にカラオケ装置を操作させて、レーザーディスクに一緒に録画されている動画と歌詞をモニターテレビに上映したうえ、伴奏音楽を再生し、顧客にそれらの伴奏音楽にあわせて歌唱させたり、顧客と従業員にデュエットで歌唱させて、それを右店舗に来集した不特定多数の顧客に聞かせて店の雰囲気作りをして営業上の利益の増大を図っている。
(二) 被告秀夫及び同美津枝は、前記「パブハウスニューパートナー」において原告の使用許諾を受けることなく、①平成三年五月の開店時から平成八年一二月二〇日までの間(平成七年六月九日から三か月間を除く。)は被告ビデオメイツから、②同月二一日から現在に至るまでは氏名不詳のカラオケリース業者からそれぞれカラオケ装置のリースを受けて設置し、前同様にカラオケ装置を操作して伴奏音楽を再生し、顧客にそれらの伴奏音楽に合わせて歌唱させたり、顧客と従業員にデュエットで歌唱させて、それを右店舗に来集した不特定多数の顧客に聞かせて店の雰囲気作りをして営業上の利益の増大を図っている。
(三) 被告ビデオメイツは、被告秀夫との間で、右両店舗について、それぞれ開店時から業務用のカラオケ装置(カラオケオートチェンジャー、アンプ、コマンダー、モニターテレビ、マイク、レーザーカラオケ、目次本等を含むシステム)のリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結し、右各店舗にカラオケ装置を搬入した上、営業用に稼働できる状態にして被告秀夫に引渡し、前記(一)①及び(二)①に記載した期間中、被告秀夫から毎月リース料の支払を受けて営業上の利益を上げていた。
3 被告らによる著作権侵害
(一) 他人の音楽著作物を公に演奏・歌唱・上映して利用する者は、法律に定める除外規定に該当する場合でない限り、その著作物の使用について著作権者の許諾を受けなければならないが(著作権法二二条、二六条、六三条)、これは演奏等を公衆に直接見せ又は聞かせる目的で入場料を取る場合に限らず、クラブ、バー、スナック等の社交飲食店の営業主が音楽の演奏・歌唱・上映により直接又は間接に営利を図る場合にも当てはまり、著作権者の許諾を得ずに著作物を演奏・歌唱・上映すれば著作権の侵害になる。そして、クラブ、バー、スナック等の社交飲食店においてカラオケ装置を使用して顧客又は従業員が歌唱した場合、その歌唱の主体がその店の営業主であることは、福岡高等裁判所昭和五九年七月五日判決とその上告審である最高裁判所第三小法廷昭和六三年三月一五日判決が認定しているところである。したがって、社交飲食店の営業主は、同店におけるカラオケ歌唱についても当然に著作権者の許諾を受けなければならず、このことは当該店舗の営業主はもちろん、業務用カラオケ装置のリース業者も当然知悉しているところである。
(二) しかるに、被告秀夫及び同美津枝は、本件両店舗において、原告の許諾を受けることなく、カラオケ装置を操作することにより、レーザーディスクに映画と一緒に録画・収録されている管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽を公に再生する等して原告の上映権(著作権法二条一項一八号、二六条二項)を侵害し、更にそれらの伴奏音楽に合わせて顧客及び従業員に歌唱させることによって演奏権(同法二二条)を侵害している。
(三) 被告ビデオメイツは、本件リース契約に基づいて、前記両店舗に業務用のカラオケ装置を搬入した上、業務用に稼働できる状態に設置して被告秀夫及び同美津枝に引渡し、本件リース契約の期間中同人らに契約条項を遵守させて、同人らをして本件両店舗で営業時間中にカラオケ装置を操作させて原告の管理著作物を上映させ、来店した顧客等に歌唱させて、月々一定額のリース料金の支払を受けていたものである。そして、このような業務用のカラオケ装置を前記両店舗のような社交飲食店に設置する目的が来店する顧客によって歌唱に供されることにあることは、リース契約締結時に契約当事者双方に明白である。したがって、そのようなリース契約とカラオケ装置の使用方法に照らせば、被告ビデオメイツが本件リース契約に基づき、被告秀夫を介して、カラオケ装置を操作して原告の管理著作物を上映し、顧客や従業員らに歌唱させているものと評価できるから、被告ビデオメイツは原告の上映権・演奏権を侵害していることになる。
4 過失(注意義務違反)
(一) 被告秀夫及び同美津枝について
被告秀夫及び同美津枝のように音楽著作物の使用が不可欠の営業をなす者は、音楽著作物の使用に際し他人の著作権を侵害することがないよう相当の注意をなすべき義務があるにもかかわらず、被告秀夫及び同美津枝は、前記各店舗を開店以来今日まで、何ら法律的に相当な措置をとることをしなかった。
(二) 被告ビデオメイツについて
被告ビデオメイツは、被告秀夫と本件リース契約を締結して前記各店舗に業務用カラオケ装置をリースした当時、カラオケ歌唱及びカラオケ装置による上映が著作権者の許諾を受けなければならないということを業務用カラオケ装置のリース業者として十分に承知していたのであるから、被告ビデオメイツとしては、被告秀夫に業務用カラオケ装置をリースした場合に、被告秀夫が原告の許諾を受けなければ著作権侵害の結果が発生することを当然予見できたものである。したがって、被告ビデオメイツとしては、被告秀夫が原告の許諾を受けたものであるか否かについて確認をし、許諾がない場合には、リース契約をしない若しくは解消する等の注意義務があるにもかかわらず、これを怠った。
5 原告の損害
原告は、被告らの前記著作権侵害により、少なくとも以下のとおりの管理著作物の使用料相当額の損害を被った。
(一) 使用料算定基準
昭和六一年八月一三日に変更認可された著作物使用料規程(同規程は、消費税の導入により平成元年三月二九日に一部変更されている。)によると、管理著作物の社交場における演奏等の使用料は、座席数(面積)及び標準単位料金の区分により、別表(1)のとおり定められている(なお、カラオケ伴奏による歌唱については、昭和四六年四月一日認可の旧規定における包括使用契約の場合と同率の五割の減額措置を講じた上、素人の客が歌唱することにより職業歌手ほどの効果が上がらないことを理由にさらにその二割を減じて使用料を算出する取り扱いがなされている。)。
この使用料算定基準に、本件両店舗の管理著作物の使用状況等を当てはめると、それぞれ次の通りとなる。
(二) 「ナイトパブG7」は、座席数は八〇席まで、標準単位料金は一万円まで、管理著作物の一日平均の使用曲数は三五曲、一か月平均の営業日数は三〇日であるから、前記の減額措置を考慮した上で一か月当たりの使用料相当額を算定すると、金七万一四〇〇円(消費税は含まない。別表(2)参照。)となり、被告ビデオメイツが同店にカラオケ機器をリースしていた平成二年六月一日から平成七年一〇月二〇日までの期間(但し、同年六月九日から三か月間を除く。)の使用料相当額は金四五五万九六〇〇円、同年一〇月二一日から平成一一年二月二八日までのそれは金二九七万四五二〇円、その合計額は金七五三万四一二〇円となる。
(三) 「パブハウスニューパートナー」は、座席数八〇席まで、標準単位料金は一万円まで、管理著作物の一日平均の使用曲数は三五曲、一か月平均の営業日数は三〇日であるから、前記と同様の方法で一か月当たりの使用料相当額を算定すると、金七万一四〇〇円(消費税を含まない。別表(3)参照。)となり、被告ビデオメイツが同店にカラオケ機器をリースしていた平成三年六月一日から平成八年一二月二〇日までの期間(但し、平成七年六月九日から三か月間を除く。)の使用料相当額は金四七〇万六六九〇円、平成八年一二月二一日から平成一一年二月二八日までの使用料相当額は金一九四万四九三〇円、その合計額は金六六五万一六二〇円となる。
6 よって、原告は、被告秀夫及び同美津枝に対し、著作権法一一二条一項に基づく管理著作物の使用の差止めと、同条二項に基づく著作権侵害行為に供された機械又は器具である別紙物件目録(一)及び(二)各記載のカラオケ装置の機器の前記各店舗からの撤去を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、まず、被告らに対して連帯して金九二六万六二九〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員(被告秀夫及び同美津枝との関係では、平成九年四月四日から支払済みまでの分のそれに限る。)の支払いを、更に被告秀夫及び同美津枝に対しては連帯して金四九一万九四五〇円及び内金一三二万三七五〇円(原告は、訴え提起後に請求の趣旨を拡張した平成九年三月一日から平成一一年二月二八日までの分の三五九万五七〇〇円については遅延損害金の請求をしていない)に対する同九年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員の各支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 被告秀夫及び同美津枝
(一) 請求原因1(一)のうち、原告の存在について認めるが、その余の部分は知らない。同(二)は認める。
(二) 同2(一)のうち、「ナイトパブG7」の営業開始時期については否認し、その余の部分は認める。同店の営業を開始したのは、平成四年四月三日である。
(三) 同2(二)のうち、「パブハウスニューパートナー」の営業開始時期につき否認し、その余の部分は認める。同店の営業を開始したのは、平成四年七月一〇日である。
(四) 同3(一)のうち、著作権法二二条、二六条及び六三条の存在並びに所掲の最高裁判例の存在は認めるが、その余は否認する。同(二)は否認する。
(五) 同4(一)は否認ないし争う。
(六) 同5(一)は認めるが、その相当性は争う。同(二)及び(三)は否認ないし争う。
2 被告ビデオメイツ
(一) 同1(一)のうち、原告の存在については認めるが、その余の部分は知らない。同(二)及び(三)は認める。
(二) 同2(一)及び(二)のうち、被告ビデオメイツがカラオケ装置をリースし始めた時期についていずれも否認し、その余の部分は知らない。被告ビデオメイツが「ナイトパブG7」にリースを開始したのは平成三年一二月二七日であり、「パブハウスニューパートナー」にリースを開始したのは同年九月三〇日である。
(三) 同2(三)のうち、被告ビデオメイツがカラオケ装置をリースし始めた時期について否認する。
(四)同3(一)のうち、リース業者に関する部分は争う。同(二)は知らず、同(三)は否認ないし争う。同4(一)は知らない。同4(二)は否認ないし争う。
被告ビデオメイツと被告秀夫との本件リース契約は、カラオケ装置を一定額の月払でレンタルするという契約に過ぎず、それ自体は何ら著作権侵害となるものではないし、しかも、本件リース契約は、明らかに被告秀夫側に優位な契約であり、被告ビデオメイツが被告秀夫及び同美津枝を支配するような関係になっておらず、また、店舗内でカラオケ装置をどのように稼働させるかは、被告秀夫及び同美津枝が主体的に決めることであり、被告ビデオメイツの関与できるところではない。
また、被告ビデオメイツは、本件リース契約を締結するに際し、被告秀夫に対し口頭で「カラオケ装置を営業使用する場合には原告との関係で著作物使用許諾契約を締結することが求められています」旨告げて、著作権侵害になることのないよう説明・指導し、リース契約書についても「本物件を営業目的で使用する場合には、借主は社団法人日本音楽著作権協会から『著作物使用許諾契約』を締結するよう求められます。当該契約の締結等については、借主の責任で対処するようにして下さい。」と明記されたものを使用し、更に右「著作物使用許諾契約」の締結手続についても説明した。
被告秀夫及び同美津枝が仮処分の執行を受けた後も、被告ビデオメイツは、被告秀夫から「カラオケがないと店の営業がやっぱり駄目で、このままでは商売ができない、何とかカラオケを入れてくれ。」と懇請されたが、「原告との間のトラブルを解決して正式に著作物使用許諾契約を締結しなければ無理である。」旨述べて、これを断った。ところが、被告秀夫が更に「原告とのトラブルは責任をもって解決し迷惑はかけない。原告との間で正式な契約をする。カラオケ装置納入による一切の責任は店側にあり、一切迷惑をかけない。」等と懇請されたため、被告秀夫が被告ビデオメイツの代表者の地元の後輩でもあったことから、被告ビデオメイツは、被告秀夫に対し「原告とのトラブルを解決すること及び正式契約を締結すること」を誓約することを条件にやむなくレンタルしたものである。そして、その後、被告ビデオメイツがリース料集金の際に被告秀夫に対し、原告との件がどう進展しているのか尋ねたところ、被告秀夫が「弁護士を通じ原告に和解案を申し入れている。先方の返事待ちである。」等と述べ、また、原告から被告ビデオメイツに対しても特段の通知、警告等がなかったことから、和解の方向で事が進んでいるものと信じていたのである。
以上のとおり、被告ビデオメイツが被告秀夫及び同美津枝を介して原告の管理著作物を原告の許諾なく上映・歌唱しているという関係はないし、被告ビデオメイツは、被告秀夫に対し「著作物使用許諾契約」について説明・指導・確認するなど被告秀夫及び同美津枝が著作権侵害をしないよう注意してきたものである。
よって、被告ビデオメイツには、不法行為は成立しない。
(五) 同5は否認ないし争う。
三 被告秀夫及び同美津枝の反論
1 著作権侵害がないことについて
被告秀夫及び同美津枝が「ナイトパブG7」及び「パブハウスニューパートナー」で使用したカラオケソフトはいずれも業務用カラオケソフトであるが、これは、私的鑑賞に供される市販レコードと異なり、カラオケソフトメーカーがカラオケスナック店などで使用されることを目的として制作したものである。すなわち、業務用カラオケソフトは、そもそもそれを利用する者が営業の一環として来店した顧客の歌唱に供するために制作されたものである。そして、原告は、そのような目的で業務用カラオケソフトが制作されることを熟知した上で録音録画許諾及び頒布許諾を与えているのである。このような業務用カラオケソフトの性格を考えると、原告は、管理著作物にかかる業務用カラオケソフトの制作について制作者に録音録画許諾及び頒布許諾を与えたことによって、当然に、制作された業務用カラオケソフトが営業として広く使用されることを許諾したものというべきである。
したがって、そのような営業目的の使用を含めて許諾されたカラオケソフトを使用したことによって原告の著作権を侵害するという事態は生じないというべきであり、カラオケソフトメーカーから管理著作物の使用料を徴収した原告が、更に被告秀夫及び同美津枝から使用料を徴収することは、使用料の二重取りに当たり、許されるべきではない。
2 オーディオカラオケとビデオグラム及び通信カラオケの間の使用料格差の不合理性、不当性
原告は、カラオケソフトの使用料金について、カラオケテープ、CDカラオケ等のオーディオカラオケとレーザーディスクカラオケ、通信カラオケ等のビデオカラオケとで格差を設け、後者を前者よりも高額に設定しているが、音楽著作物の使用にこのような価格差を設定することには何らの合理性もなく不当である。
すなわち、オーディオカラオケは、テープやCD等の録音媒体に音を固定したもので、それを再生することにより伴奏音楽を再生し、あるいは伴奏音楽とともに歌詞をモニター上に表示する機能を有するものであり、一方、ビデオグラムは、ビデオテープやビデオディスクなどに連続した映像に音楽を固定したもののうち、映画フィルム以外のものをいい、これを再生すると、連続した映像とともに伴奏音楽が再生され、歌詞がモニター上に表示されるものである。ビデオグラムは、カラオケソフトメーカーが原告から音楽著作物の録音録画許諾及び頒布許諾を得て、自社で制作・調達した連続映像と、やはり独自に調達した演奏者及び編曲による伴奏音楽を記録媒体に固定したものであるから、ビデオグラムの少なくとも映像部分についての著作権はカラオケソフト制作者に帰属するというべきであり、しかも、ビデオグラムを再生した音は、スピーカーを通じて人間の耳に感知させるものであって、その点オーディオカラオケの再生と何ら異なるところはない。したがって、ビデオグラムをオーディオカラオケと区別して価格を上乗せすることについては何ら合理性は見出せない。
また、通信カラオケは、伴奏音楽、歌詞情報を電話回線によって送信し、これを別の媒体に納められた背景画像の再生時にスーパーインポーズ方式によって両者を同一画面上に表示するものであるが、通信カラオケにおける背景画像は、音楽とともに記録媒体に固定されたものではなく、また、送信・再生される伴奏音楽、歌詞との内容的関連性もなく制作され、再生される。したがって、その背景画像の著作権が背景画像制作者にあることはビデオグラムの場合よりも一層明白であり、伴奏音楽の送信・再生と歌詞の表示もオーディオカラオケと何ら異なるところはないから、通信カラオケの使用料をオーディオカラオケのそれと同一にしないのは不当というほかない。
四 被告秀夫及び同美津枝の反論に対する原告の再反論
1 三1に対して
他人の著作物を利用しようとする者は、著作物の自由使用が許されている場合を除き、著作権者から著作物の使用について許諾を受けなければならないが、その場合の許諾は、一定の範囲ないし方法で著作物の使用を認めるというものである(著作権法六三条二項参照)。被告秀夫及び同美津枝が問題として取り上げている業務用カラオケソフトの制作について原告がした許諾は、業務用カラオケソフトの制作者に対して、管理著作物をカラオケソフトに制作するために複製することを許諾したものであって、社交飲食店の経営者がその制作されたカラオケソフトを使用して管理著作物を再生(演奏・上映)し及び歌唱することまで許諾しているわけではない。このことは、業務用通信カラオケの制作についても妥当するものである。
2 三2について
著作権の概念は、著作財産権と著作者人格権との関係をどう考えるかによって見解の対立が見られるが、著作権がもともと財産権として法的承認を受けた権利であることには争いがない。著作権の財産権としての性質からすれば、著作物の使用をいくらで許諾するかは、本来著作権者が利用者との間で経済的合理性を前提として自由に決められるべき事柄であるから、音楽著作物の使用によって期待される経済的利益を勘案して使用料が決定されることには合理性が認められる。そして、オーディオカラオケに比べると、現在主流になっている動画と一体となったビデオグラムの方が顧客吸引力が強いことは自明といってよく、また、通信カラオケにあってもスーパーインポーズ方式によるときは、その視覚的効果がビデオグラムと同様であり、顧客吸引力に差がないと考えられ、ビデオグラムと同様の使用料率を適用することには十分合理性がある。
第三 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。
理由
一 請求原因1(一)の事実は、<証拠省略>により認められ、同(二)及び(三)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 請求原因2(一)(被告秀夫及び同美津枝の「ナイトパブG7」における行為)について
1 請求原因2(一)のうち、被告秀夫及び同美津枝が、その経営する「ナイトパブG7」において、平成四年四月三日から現在に至るまでの間(平成七年六月九日から三か月間を除く。)、原告の許諾を得ることなく、カラオケ装置のリースを受けて設置し、これを操作して原告の管理著作物を上映し、顧客や従業員に歌唱させて店の雰囲気作りをして営業上の利益の増大を図ってきたこと、右カラオケ装置は、平成七年一〇月二〇日までは被告ビデオメイツから、同月二一日から平成八年一二月二〇日までの間は訴外株式会社常磐第一興商から、同月二一日から現在に至るまでの間は訴外水戸東映エーブイシステム株式会社からそれぞれリースを受けたものであることの各事実は、原告と被告秀夫及び同美津枝との間で争いがなく、原告と被告ビデオメイツとの関係においても弁論の全趣旨により認められる。
2 被告秀夫及び同美津枝による「ナイトパブG7」における原告の管理著作物の使用開始日について
<証拠省略>によれば、「ナイトパブG7」は当初柴沼が単独で経営していたものであるが、その後に被告秀夫と同美津枝が経営を引き継いだものであること、被告ビデオメイツは、平成三年一二月二七日、被告秀夫との間で同店に係る本件リース契約を締結し、同日同店にカラオケ装置を搬入・設置し、右装置は直ちに使用可能な状態となったこと、カラオケ装置のリース料は同日分から発生していたが、被告秀夫は右リース料を支払日に遅滞なく支払ったことの各事実を認めることができ、これらの事実によれば、遅くとも同日には被告秀夫及び同美津枝が同店を経営し、同日ころから同店における右被告両名による原告の管理著作物の使用が始まったものと推認することができ、これに反する部分の被告秀夫本人尋問の結果は信用することができない。
なお、平成三年一二月二六日以前に、被告秀夫及び同美津枝が同店において原告の管理著作物を使用していたことを認めるに足りる証拠はない。
三 請求原因2(二)(被告秀夫及び同美津枝の「パブハウスニューパートナー」における行為)について
1 請求原因2(二)のうち、被告秀夫及び同美津枝がその経営する「パブハウスニューパートナー」において平成四年七月一〇日から現在に至るまでの間(平成七年六月九日から三か月間を除く。)、原告の許諾を得ることなく、カラオケ装置のリースを受けて設置し、これを操作して原告の管理著作物を上映し、顧客や従業員に歌唱させて店の雰囲気作りをして営業上の利益の増大を図っていること、右カラオケ装置は、平成八年一二月二〇日までは被告ビデオメイツから、同月二一日から現在に至るまでの間は氏名不詳のリース業者からそれぞれリースを受けたものであることの各事実は、原告と被告秀夫及び同美津枝との間で争いがなく、原告と被告ビデオメイツとの関係においても弁論の全趣旨により認められる。
2 被告秀夫及び同美津枝による「パブハウスニューパートナー」における原告の管理著作物の使用開始日について
<証拠省略>によれば、同店は平成三年五月ころに営業を開始したものであること、被告ビデオメイツが平成三年九月三〇日に同店にカラオケ装置を搬入・設置し、右装置は直ちに使用可能な状態となったこと、同日からカラオケ装置のリース料が発生しており、被告秀夫はこれを遅滞なく被告ビデオメイツに支払ったことの各事実を認めることができ、これらによれば、同日ころから原告の管理著作物の使用が始まっていたものと推認することができ、これを覆すに足りる証拠はない。
なお、平成三年九月二九日以前に同店において原告の管理著作物が使用されていたことを認めるに足りる証拠はない。
四 請求原因2(三)(被告ビデオメイツの行為)について
請求原因2(三)の事実のうち、被告ビデオメイツが被告秀夫にカラオケ装置を前記各店舗にリースし始めた時期を除いては当事者間に争いがない。
右リース開始時期は、「ナイトパブG7」については平成三年一二月二七日、「パブハウスニューパートナー」については同年九月三〇日であると認められることは、前記二及び三のとおりである。
五 請求原因3(一)及び(二)(被告秀夫及び同美津枝による著作権侵害)、同4(一)(過失)並びに被告らの主張1(著作権侵害がないこと)について
1 著作権侵害の有無について
(一) 前記両店舗では、カラオケ装置を操作することによって、管理著作物である歌詞及び伴奏音楽の複製物を含む映画著作物であるレーザーディスクカラオケの上映が行われ、また、平成七年九月ころより以降は、通信カラオケによる管理著作物である伴奏音楽の演奏が行われていることが認められるが、両店舗の営業主である被告秀夫及び同美津枝がこのような管理著作物の演奏・上映の主体であることについては当事者間に争いはない。
(二) また、両店舗では、被告秀夫や同美津枝だけではなく、店の従業員や顧客も演奏・上映された音楽に合わせて歌唱して、管理著作物の歌唱(演奏)を行っていることが認められるが、被告秀夫及び同美津枝は、カラオケ装置とともに楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、顧客に歌唱を勧め、顧客が選曲した音楽著作物を前述のとおりに演奏・上映して顧客に歌唱させ、また、ときには店の従業員にも顧客とともにあるいは単独で歌唱させており、被告秀夫及び同美津枝も、顧客らの歌唱によって直接ないし間接的に営業上の利益を得ていることは明らかであるから、顧客や従業員による歌唱についても、その主体は営業主である被告秀夫及び同美津枝であるというべきである。
(三) そして、カラオケ装置を使用して原告の管理著作物を上映・演奏・歌唱している被告秀夫及び被告美津枝にとって、前記両店舗に来集する顧客は不特定多数の者であるから、右の上映・演奏・歌唱は、公衆に直接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。
(四) そして、著作権法附則一四条によれば、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令(著作権法施行例附則三条)で定めるものにおいて行われるものを除き、当分の間自由に行い得るものとされているが、この点について、被告らの主張立証はないから、著作権法附則一四条の例外事由の存在も認められない。
(五) 以上によれば、被告秀夫及び同美津枝は、「ナイトパブG7」においては平成三年一二月二七日から、「パブハウスニューパートナー」においては同年九月三〇日から、それぞれの店舗内でカラオケ装置を使って、①管理著作物である伴奏音楽を公に再生することにより管理著作物の演奏権を侵害し、②映画の著作物において複製されている管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽を公に上映してその上映権を侵害し、③再生された伴奏音楽に合わせて顧客及び従業員に公に歌唱させることにより管理著作物の演奏権を侵害しているものと認められる。
(六) 被告らの反論1(一)(著作権侵害がないこと)について
この点につき、被告秀夫及び同美津枝は、原告は、管理著作物の業務用カラオケソフトの制作を制作者に許諾したことによって、右被告両名が右制作者との契約に基づき、前記両店舗において右カラオケソフトを再生して、これに合わせて顧客に歌唱させることについても許諾している旨主張し、制作者から管理著作物の使用料を徴収した原告が、更に被告秀夫及び同美津枝から使用料を徴収することは、使用料の二重取りとなり許されないと主張する。
しかし、カラオケソフトを制作するために管理著作物を複製する行為と、制作されたカラオケソフトをカラオケスナック等の店舗において使用し、管理著作物を公に再生すること及びこれに合わせて公に顧客や従業員などに歌唱させることとは、明らかに別個の行為と言うべきところ、原告と業務用カラオケソフト制作者との契約では、管理著作物の複製及び店舗への頒布及び送信のみが許諾の対象とされ、店舗における管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱については許諾の対象とされていないものといわざるを得ないから、被告秀夫及び同美津枝の前記主張には理由がない。
2 過失の有無について
<証拠省略>によれば、被告秀夫及び同美津枝は、被告ビデオメイツとの間で本件リース契約の締結に際し、同被告から原告の管理著作権を侵害しないよう、原告との間で著作物使用許諾契約を締結するように書面及び口頭で指示されていたことが認められ、これに反する部分の被告秀夫本人尋問の結果は信用できない。これによれば、被告秀夫及び同美津枝は、本件リース契約を締結した時点において、原告の許諾を得ることなく前記両店舗においてカラオケ装置を操作して管理著作物の上映・演奏・歌唱を行えば、原告の管理著作物を侵害することになることを知り得たというべきであり、これに対して、原告との間で著作物使用許諾契約を締結するなどの特段の措置を講ずることもなく、原告の管理著作権を使用し続けたのであるから、被告秀夫及び同美津枝には、原告の著作権を侵害したことについて過失があるというべきである。
六 請求原因3(三)(被告ビデオメイツによる著作権侵害)及び同4(二)(過失)について
1 前記のように、被告ビデオメイツが、本件リース契約に基づいてカラオケ装置を前記両店舗に搬入し、営業用に稼働できる状態にした上で、これを被告秀夫及び同美津枝に引き渡したこと、被告秀夫及び同美津枝がこのカラオケ装置を操作して原告の著作権侵害行為を行ったことの各事実は、当事者間に争いはない。
2 そして、右両店舗のようなカラオケスナック等の社交飲食店がカラオケ装置を使用する場合は、前記著作権法附則一四条の例外に該当しない可能性が一般的に高いのであるから、カラオケ装置が原告の著作権を侵害する危険のあるものである以上、このような店舗にカラオケ装置をリースしようとする業者としては、当然に右危険性を知悉しているものであるから、リースの対象となっているカラオケ装置が原告の著作権侵害の道具として使用されないよう配慮すべき一般的な注意義務を負っているものというべきである。ただ、通常は、リース業者の口頭又は書面による著作物使用許諾契約の締結の指導があれば、これに従ってリース契約締結時に速やかに原告と著作物使用許諾契約を締結する店舗が多いものと推察できるから、リース業者としては、右に述べたような指導をすれば、多くの場合は右配慮義務を果たしたということが可能であろうが、リースの相手方が原告との間で著作物使用許諾契約を締結しない可能性が相当程度予見できるような場合とか、契約締結後もリースの相手方が未だ右許諾契約を締結していない可能性を疑わせるような特段の事情がある場合には、右のような指導をすれば足りるというものではなく、その相手方が原告との間で著作物使用許諾契約を締結するのを確認するまではカラオケ装置を引き渡さないようにするとか、引渡後であればそれを引き揚げるなど原告の著作権侵害を生じさせないような措置を講じなければならないというべきである。
3(一) これを本件についてみるに、<証拠省略>によれば、被告ビデオメイツは、被告秀夫と本件リース契約を締結する際、「本物件を営業目的で使用する場合には、借主は社団法人日本音楽著作権協会から著作物使用許諾契約を締結するよう求められます。当該契約の締結については、借主の責任で対処するようにして下さい。」との注意記載のある契約書面を使用し、被告秀夫に対し原告との著作物使用許諾契約について口頭でも説明した事実が認められ、また、その当時、被告秀夫が原告と著作物使用許諾契約を締結する意思のないことを予見するに足りるだけの事情を被告ビデオメイツが把握していたこと及びその後次の(二)で認定する時期までの間に右両名が未だ右許諾契約を締結していない可能性を疑わせるような特段の事情があったことを認めるに足りる証拠はないから、この間においては、被告ビデオメイツに前記の注意義務違反はないとするのが相当である。
(二) しかしながら、<証拠省略>によれば、被告ビデオメイツは、平成七年六月九日以降になって、被告秀夫自身から同人が原告の著作権を侵害したとの理由でカラオケ装置の使用禁止等の仮処分命令の執行を受けたことを知るに至り、その時点でようやく被告秀夫がそれまで原告との間で著作物使用許諾契約を全く締結していなかったことを認識するに至ったこと、ところが、被告秀夫が原告とのトラブルについては責任をもって解決し、被告ビデオメイツに対しては迷惑をかけない旨誓約したことから、被告ビテオメイツは、新たにカラオケ装置を被告秀夫にリースしたことの各事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
これによれば、被告ビデオメイツは、被告秀夫から右仮処分執行の話を打ち明けられたことにより、被告秀夫が著作権料を支払わないで原告の管理著作物を使用していたことが判明したのであるから、前記の契約後にリース契約の相手方が原告との著作物使用許諾契約を締結していないことを疑わせる特段の事情があり、被告秀夫がその後も著作物使用許諾契約を締結しない可能性があることは十分に予見できたというべきである。したがって、被告秀夫の述べるところを軽信し、原告の著作権侵害が生じないような措置を特にとることもなく、漫然とカラオケ装置を再度リースした被告ビデオメイツの行為には、過失(注意義務違反)が認められるといわなければならない。
4 以上から、被告ビデオメイツは、被告秀夫らに新たなカラオケ装置をリースした平成七年九月ころから、「ナイトパブG7」については同年一〇月二〇日まで、「パブハウスニューパートナー」については平成八年一二月二〇日までの間、被告秀夫及び同美津枝と共同して原告の管理著作権を侵害してきたものと評価することができる。
七 請求原因4(損害額)及び被告秀夫及び同美津枝の反論2について
1 <証拠省略>によれば、平成三年九月以降における原告の管理著作物の使用料は、請求原因5(一)記載のとおりであることが認められ、したがって、原告が受けた損害額は次のとおりとなる(但し、被告ビデオメイツ関係の損害は、被告秀夫及び同美津枝関係の損害に含まれている。)。
(一) 被告秀夫及び同美津枝関係
金一二四九万四二七〇円
① 「ナイトパブG7」について
平成三年一二月二七日から平成一一年二月二八日までの期間(但し、平成七年六月九日から三か月間を除く。)の八三か月分の金六一三万六八二〇円(但し、原告は、右のうち後に請求の趣旨を拡張した平成九年三月一日から平成一一年二月二八日までの分一七九万七八五〇円については遅延損害金の請求をしていないので、遅延損害金が認められるのは四三三万八九七〇円についてである。)
② 「パブハウスニューパートナー」について
平成三年九月三〇日から平成一一年二月二八日までの期間(但し、前記三か月間を除く。)の八六か月分の金六三五万七四五〇円(但し、原告は、右のうち後に請求の趣旨を拡張した平成九年三月一日から平成一一年二月二八日までの分一七九万七八五〇円については遅延損害金の請求をしていないので、遅延損害金が認められるのは四五五万九六〇〇円についてである。なお、主文においては、前記①との合計額を、後記被告ビデオメイツとの連帯債務となる分とそれ以外の分とに分けている。)
(二) 被告ビデオメイツ関係
金一一七万六六七〇円
① 「ナイトパブG7」について
平成七年九月中旬から同年一〇月二〇日まで約一か月分の金七万三五四〇円
② 「パブハウスニューパートナー」について
平成七年九月中旬から平成八年一二月二〇日まで約一五か月分の金一一〇万三一三〇円
2 被告らの反論2について
被告秀夫及び同美津枝は、原告がオーディオカラオケの使用料金とビデオグラムのそれとの間に格差を設け、後者を前者よりも高額に設定していることについて合理性がないと主張する。
しかしながら、そもそも著作権の財産権たる性格に照らすと、著作物の使用を許諾するための料金をどのように定めるかは、本来著作権者がその商品価値を勘案して自由に決定すべきものであり、その際、許諾を受ける者が当該著作物の使用によって生み出す経済的価値ないし利益の程度を勘案して使用料を定めたとしても、そのことに何らの不当性はないといわなければならない。
したがって、この点に関する被告秀夫及び同美津枝の主張には理由がない。
八 結語
以上によれば、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六四条本文を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・鈴木航兒、裁判官・中野信也 裁判官・植村幹男は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官・鈴木航兒)
別紙物件目録(一)・(二)<省略>
別表
(1)〜(3)<省略>